baisadoの本棚から(11)

3年前にこちらでご紹介した、ユニークなコーヒー栽培実践記の著者が、昨秋新著を出されました。

山岸秀彰「コーヒーの美味しさは畑の中に」(いなほ書房)

ニューヨークのウォール街でヘッジファンドのマネージング・ダイレクターを務めていた著者は、突然の腎臓がん宣告を機に44歳でアーリーリタイアしてハワイ島西岸のコナに移住しましたが、敷地に生えていたコーヒーの木に興味を持ち、経験値ゼロからのコーヒー栽培に挑戦します。

かつてコナのコーヒー栽培を支えた日系人の先達に教えを請うたり、島内のコーヒー研究機関に通ったりしながら、虫食いや未熟・過熟などの欠点豆削減を栽培・収穫の両面から実証的に突き詰めた結果、コナでも最高品質のコーヒー豆を生産するまでになったものの、ハードな作業に身体が悲鳴を上げ、残念ながら数年前に市場への出荷を終了されました。

前著は栽培・収穫プロセスの具体的な内容が中心でしたが、新著では一般の方も予備知識なしに読めるよう、著者の日常生活で起こる様々な出来事をユーモアたっぷりに紹介しています。またご自身のライフ・ヒストリーにもページが割かれており、自伝的な一面もある本です。

肩の力を抜いて読めるエッセイですが、著者の主張は前著から一貫しています。美味しいコーヒー豆を得るためには、健康に育ったコーヒーの木に実る完熟した実だけを収穫する必要があること。ところが、コーヒーの木の特性(一斉開花しないため収穫期間が長い、樹高が高いため収穫しづらい、完熟した実だけを摘み取るのは手間がかかる、熟し過ぎた実や地面に落ちた実を放置すると虫が湧く、など)によりそれは容易でないこと。つまり、現場で収穫するピッカーに対して、完熟した実だけを収穫するためのインセンティブ(十分な報酬)を与えなければならないこと。

コーヒーの実の収穫作業は典型的な「子供には継がせたくない」仕事であり、かつては日系移民が担ったコナコーヒーの収穫も、現在はラテンアメリカからの移民労働者に依存しており、アメリカの移民政策の転換もあって担い手不足が深刻化しているそうです。美味しいコーヒーに対する需要が増せば増すほど、世界のコーヒー産地でこの問題が顕在化してきそうに思います。その時コーヒー市場はどうなるのか、また私たちはどうすればいいのか。丁寧に収穫されたコーヒー豆を扱う卸売業者から原料を仕入れ、丁寧に焙煎してお客さまにお届けすることが、まずは自分たちにできることだと思います。

店内に常備していますので、ご来店の際はぜひ一度お読みください。

baisado
京都下鴨の小さな珈琲焙煎所

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