ファーメンテーションコーヒー

「焙煎で生豆の産地は変えられない」

私たちがコーヒー焙煎を教わった方がよくおっしゃることです。生豆の個性の違いは産地や品種によるものであって、焙煎によってその個性を変えることはできない、という教えです。

ところが最近、生豆の個性を変える技術が急速に発展しています。ファーメンテーション(発酵処理)です。

これまでも、コーヒーの生豆作りには醗酵技術が使われてきました。コーヒーの果実をそのまま天日干しするナチュラル(非水洗式精選)では、発酵した果肉の風味が(良くも悪くも)生豆に移ります。また果肉を剥ぎ取って殻(パーチメント)付きで生豆を乾燥させるウォッシュト(水洗式精選)では、果皮を剥がした果実を水槽に漬け、水中の微生物の活動によって果肉を除去します。

しかしファーメンテーションでは、より積極的に発酵技術を活用します。具体的には、密閉タンクに果実を投入して長時間発酵させることで、これまでの精選方法では出せない独自の風味を生豆に染み込ませます。その際、果実に付いている天然の微生物を用いる場合も、微生物を添加する場合もあるようです。

ナチュラルやウォッシュトでは酸素を用いる好気性発酵(アエロビック・ファーメンテーション)が行われるのに対し、発酵処理の多くでは酸素を用いない嫌気性発酵(アナエロビック・ファーメンテーション)が行われます。嫌気性発酵を行う代表的な微生物は乳酸菌で、伝統的な生酛造りの日本酒に感じるような明るい酸味が生じます。

最近試験的に取り扱ったブラジル産の生豆は、乳酸発酵の後にアルコール発酵を行う「ダブル・アナエロビック・ファーメンテーション」処理が施されていましたが、焙煎したコーヒーはハーブやスパイスを感じるインドネシア・マンデリンのような風味、あるいは華やかな柑橘香をまとったエチオピア・モカのような風味で、とても興味深いものでした。

つまりファーメンテーションは、狙った風味を生産者が自ら作り出せる、「ブラジルの生豆でマンデリンやモカの生豆を作る」ような技術です。生産者が生豆の付加価値を高めようとするのは当然のことですので、研究開発や設備投資に相応のコストがかかるものの、この技術は今後ますます広まると予想されます。

今後世界情勢や気候の変動によってマンデリンやモカのコーヒーが手に入らなくなったら、我々はファーメンテーションコーヒーに頼ることになるかもしれません。今後の展開を引き続きウォッチしていこうと思っています。

baisado
京都下鴨の小さな珈琲焙煎所

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