ウィーンのコーヒー豆

前回はウィーンのコーヒー屋事情を少しだけご紹介しました。
今回はウィーンから買って帰ったコーヒー豆をご紹介します。

まずは以前から気に入っているロースター、Alt Wien Kaffeeのコーヒー豆です。
15年ほど前に初めて訪れたときには店内に小さな(といってもbaisadoのよりは大きな)焙煎機が置いてありましたが、今回行ってみると見当たらず、尋ねたところいまは別の場所で大きな焙煎機を使っているとのこと。実際、今回入ったカフェやレストランの多くがこちらの豆を使っていて、広く浸透していることに驚きました。

「中深煎りが好きだ」と伝えて勧めてもらった商品のうち、まだ飲んだことがないホンジュラスを購入しました。今年から変えたというパッケージも素敵です。

HONDURAS 18- CONEJO DEMETER (Alt Wien Kaffee)
https://www.altwien.at/honduras-18-conejo-demeter/

ふっくらと膨らんでいて表面の皺は伸びているが油は染み出していない、わたしたち好みの焙煎度です。手回しミルで挽いた感触では、中深煎りよりは少し浅い(豆が硬い)かなと感じました。

飲み始めは柑橘系の酸味をはっきり感じましたが、冷めてくると落ち着き、気がついたら飲み終わっていました。とてもクリーンで美味しかったです。
コーヒー豆は最低250gから売っていますが、こちらは250gで9.5ユーロ(約1500円)。安いです。

もう一つはウィーンのコーヒーの老舗、ユリウス・マインル本店のコーヒー豆です。高級ブランドショップが軒を連ねる中心街に大きな店を構える、日本で言えば明治屋や紀ノ国屋のような高級食品店です。ウィーンのカフェの多くがこちらのコーヒー豆を使っています。

見るだけでも楽しい充実したコーヒー豆売り場の中から選んだのは、エチオピアとケニアのブレンドです。「オリエントの王」というかっこいい商品名にも惹かれました。

King of the Orient (Julius Meinl am Graben)
https://www.meinlamgraben.eu/shop/en/mag-king-of-the-orient-bohne-250g

豆の仕上がりはこちらもバッチリ。勉強になります。濃い色と浅い色の豆が混ざっているところを見ると、ケニアは深め、エチオピアは浅めなのかもしれません。

飲んだ印象はクリーンかつ華やかで、「オリエントの王」の名にふさわしい力強い味わいでした。お値段は250gで10.99ユーロ(約1800円)。こちらも十分安いです。

余談ですが、どちらの店でもエチオピアよりケニアのほうが値段が高かったです。日本ではほぼ同程度の価格で生豆が流通しているのですが、ウィーンには良いケニアが入っているのでしょうか、あるいは日本に良いエチオピアが入っているのでしょうか。次回訪れた時に聞いてみたいです。

ぷっくり膨らんで艶のあるウィーンの「美肌」豆を、自分たちの焙煎のベンチマークとして今後に活かしていこうと思います。

ウィーンのコーヒー屋

10日ほどお休みをいただき、オーストリアのウィーンに行ってきました。
気候は日本の11月ごろの感じ(最高15度・最低10度くらい)で、朝晩はかなり冷え込みましたが、昼間は薄いコートを羽織るくらいで快適に過ごせました。

ウィーンはカフェ文化の中心地で、街の至るところにカフェがあります。観光ガイドに載るような有名店には観光客が列をなしていますが、地元の人で賑わうカフェもたくさんあり、どこもおいしいコーヒーを提供しています。

ウィーンのカフェで提供されるコーヒーは基本エスプレッソで、ミルクなしの「シュヴァルツァー」、ミルク入りの「ブラウナー」、泡立てたミルクを載せた「メランジュ」などが定番です。生クリームを載せたいわゆる「ウィンナコーヒー」は、こちらでは「アインシュペンナー」と呼ばれます。水道水の水質が良いからか、ヨーロッパでは珍しく無料でお水が出てくるのもウィーンのカフェの特徴です。

一方、狭い間口のお店を構え、目の前で一杯ずつハンドドリップコーヒーを提供するお店も増えています。店主は皆さんコーヒー大好き人間で、わたしたちの拙い英語でも会話が盛り上がりました。

こちらで外食すると値段の高さに驚かされますが、コーヒー豆の値段は日本より安く感じられます。輸入量や産地との距離が関係しているように思います。実際に飲んで味を確かめたお店のコーヒーを買って帰り、わたしたちのコーヒーと飲み比べしてみるつもりです。

夏の自由研究

今年の夏は例年にまして早くから、そして長い間猛暑が続きました。
店の周辺の人通りも少なめで考える時間がたっぷりあったので(笑)いくつか温めていたアイデアをカタチにしてみました。

まずは、無糖・無添加の濃縮コーヒー「コーヒーリキッド」の販売開始。
生豆の取引先に紹介していただいた、超小ロットでも対応可能な業者さんに「baisado ハウスブレンド」の豆を送り、抽出・瓶詰めしていただいています。お好みで3〜4倍に割ってアイスコーヒーやカフェオレを楽しむのはもちろん、アイスクリームやスイーツのトッピングとしてそのまま使ってもOK。
軽くておしゃれな250mlペットボトル入りで、いつでもどこでも手軽においしいコーヒーが飲めると、大変好評いただいています。

また、新しいブレンド「そうげんブレンド」も作りました。エキゾティックな香りのエチオピア、爽やかな苦味のグアテマラ、優しい甘さのペルーをブレンドし、草原をそよぐさわやかな風をイメージ。お店でお出しするアイスコーヒーでも人気です。

もう一つ、毎月一回200グラムのコーヒーをお届けする「baisado定期便」サービスも始めました。折々におすすめのシングルオリジンとブレンドをセレクトして、送料無料でお送りします。オンラインショップで毎回注文するのがおっくうに感じられる方、つい買い忘れてしまう!という方にもおすすめです。また、遠くに住むご家族やご友人へのギフトとしてもぜひご利用ください。

大きな台風が通り過ぎ、ようやく秋の気配が感じられるようになってきました。9月からの新商品もどうぞお楽しみに!

素晴らしいコーヒーってどんな味?

以前こちらの記事でもご紹介した、コーヒー業界の有名人でユーチューバーでもあるジェームズ・ホフマンさんが、こんなタイトルの動画を投稿しています。

視聴者からしょっちゅう尋ねられるこの質問を取り上げてみようという形をとって、素晴らしいコーヒーに共通の特徴について議論しています。

ぜひ実際にご覧いただきたい(日本語字幕も選べます)ので詳細は省きますが、弦楽アンサンブル、天秤、ダンサー、スクリーンに投影された写真など、さまざまな例えを用いて説明を試みています。

最後のシーンで彼は「とても素敵な物哀しい瞬間」という意味の言葉を使います。ある人にとって素晴らしいコーヒーとは、その人が「まだ飲み終わりたくない」「もっと飲んでいたい」と感じるようなコーヒーだというのは、どんな好みを持った人にも当てはまる、素晴らしい定義だと思います。

コーヒーの味わいは多様で、コーヒーの好みもまた多様です。皆さんが、ご自分にとって素晴らしいコーヒーに出会えますように。

コーヒーリキッド作りました

お店でホットコーヒーとしてもアイスコーヒーとしてもお楽しみいただいているbaisadoの「ハウスブレンド」で、無添加・無糖の液体濃縮コーヒー「コーヒーリキッド」を作りました。

挽きたての粉で淹れたコーヒーは最高においしいですが、作るのに時間が掛かったり洗い物が増えたりして、忙しい朝などには面倒に感じられる方もおられると思います。

そんなお声に応えて、カップの上に乗せてお湯を注ぐだけのドリップバッグや、ポットに放り込んで水を注ぎ後は待つだけのコールドブリューバッグをご用意していますが、このコーヒーリキッドはもっと手軽で、コップに注いでお湯を注ぐだけで、美味しいコーヒーが出来上がります。

冷水で割ればアイスコーヒー、牛乳で割ればカフェオレ。濃さも温度も甘さもお好みに合わせられます。さらに炭酸水で割っても、エスプレッソ代わりにアイスクリームにかけてもおいしいです。ボトルは手のひらサイズなので、旅行やキャンプのお供にも適しています。

濃いけれど苦過ぎず、すっきりした後味のコーヒーリキッド、ぜひ一度お試しください。

ササキスポーツ看板撤去

お隣の老舗ラグビーショップ「ササキスポーツ」さんが、昨日お店の看板を降ろされました。

隣でガンガン大きな音がしているなと外に出てみると、看板はもう鉄柱から切り落とされた後で、トラックに積み込まれる直前、業者さんに頼んで写真を撮らせてもらうのが精一杯でした。

戦前からここで商いを続けてこられたと伺っており、我々も開店当初よりお世話になってきました

営業を終了されたのかどうかはまだお聞きしていませんが、見慣れた景色が変わってしまい、ちょっとショックです。

baisadoの本棚から(8)

昨年ご紹介したこの本に続編が出ました。

大阪 喫茶店クロニクル

京都よりも広い大阪の、京都よりも多様な喫茶店の歴史が、コンパクトながら濃密に記されている本です。

ビジネス街で100年以上続く小さなお店、建築家の設計による繁華街の豪華なお店、いまや焙煎機メーカーとして有名な会社の意外な出自など、戦前・戦後・現在にわたる大阪の喫茶店や焙煎業者の情報が満載です。まだ行ったことのないユニークなお店がいくつも載っており、行ってみたくなりました。

先日著者が講師を務めるイベントに参加する機会がありましたが、実際にお店に足を運んで関係者から直接仕入れられたお話はリアリティに富み、とても興味深かったです。

大阪の喫茶店の歴史的な繋がりを学ぶもよし、この本を片手に喫茶店巡りをするもよし。お店に置いてありますので、ご来店の際にはぜひどうぞ。

ファーメンテーションコーヒー

「焙煎で生豆の産地は変えられない」

私たちがコーヒー焙煎を教わった方がよくおっしゃることです。生豆の個性の違いは産地や品種によるものであって、焙煎によってその個性を変えることはできない、という教えです。

ところが最近、生豆の個性を変える技術が急速に発展しています。ファーメンテーション(発酵処理)です。

これまでも、コーヒーの生豆作りには醗酵技術が使われてきました。コーヒーの果実をそのまま天日干しするナチュラル(非水洗式精選)では、発酵した果肉の風味が(良くも悪くも)生豆に移ります。また果肉を剥ぎ取って殻(パーチメント)付きで生豆を乾燥させるウォッシュト(水洗式精選)では、果皮を剥がした果実を水槽に漬け、水中の微生物の活動によって果肉を除去します。

しかしファーメンテーションでは、より積極的に発酵技術を活用します。具体的には、密閉タンクに果実を投入して長時間発酵させることで、これまでの精選方法では出せない独自の風味を生豆に染み込ませます。その際、果実に付いている天然の微生物を用いる場合も、微生物を添加する場合もあるようです。

ナチュラルやウォッシュトでは酸素を用いる好気性発酵(アエロビック・ファーメンテーション)が行われるのに対し、発酵処理の多くでは酸素を用いない嫌気性発酵(アナエロビック・ファーメンテーション)が行われます。嫌気性発酵を行う代表的な微生物は乳酸菌で、伝統的な生酛造りの日本酒に感じるような明るい酸味が生じます。

最近試験的に取り扱ったブラジル産の生豆は、乳酸発酵の後にアルコール発酵を行う「ダブル・アナエロビック・ファーメンテーション」処理が施されていましたが、焙煎したコーヒーはハーブやスパイスを感じるインドネシア・マンデリンのような風味、あるいは華やかな柑橘香をまとったエチオピア・モカのような風味で、とても興味深いものでした。

つまりファーメンテーションは、狙った風味を生産者が自ら作り出せる、「ブラジルの生豆でマンデリンやモカの生豆を作る」ような技術です。生産者が生豆の付加価値を高めようとするのは当然のことですので、研究開発や設備投資に相応のコストがかかるものの、この技術は今後ますます広まると予想されます。

今後世界情勢や気候の変動によってマンデリンやモカのコーヒーが手に入らなくなったら、我々はファーメンテーションコーヒーに頼ることになるかもしれません。今後の展開を引き続きウォッチしていこうと思っています。

ペーパーフィルターの話

前回のブログの続きです。

ペーパードリップでは、ドリッパーとペーパーフィルターがそれぞれ別の働きをしています。

ペーパーフィルターは、ドリッパーに溜まったお湯とコーヒーの粉の混合液から、エキス分が溶けたコーヒーだけを濾し取るための「濾紙」です。微粉などの個体はキャッチしつつ液体だけを透過するためには、すぐに目詰まりしてしまわないよう、フィルターにある程度の厚みが必要です。濾紙の表面にクレープ(僅かな凹凸)を作る、クレープを片面だけでなく両面に作る、そもそもフィルター自体を波型にするなど、メーカーごとにさまざまな工夫が行われています。

一方ドリッパーには、フィルターで濾過されたコーヒーを素早く排出することが求められます。そのためドリッパーの内面には「リブ(肋骨の意味)」と呼ばれる筋状の突起があり、ドリッパーとフィルターの間に空気層を作ることで、ドリッパーとフィルターの密着を防いでいます。フィルターのクレープや波型も「リブ」と同じ効果を狙ったものですし、壁面を波型にしたドリッパーも同様の工夫です。

このようにドリッパーとフィルターの密着を防ぐための様々な工夫がなされていることを考えると、ドリッパーにフィルターをセットした状態でお湯を注ぐ「リンス」と呼ばれる作業は、やらないほうがよいことになります。ドリッパーを温めたいだけなら、フィルターをセットする前にお湯を注ぐほうがよいですし、もしフィルターの匂いが気になるのなら、茶色いフィルターではなく酸素漂白された白いフィルターを用いれば大丈夫です。

baisadoでは、ドリッパーと同じ三洋産業製のフィルターを使っています。三洋産業はフィルター製造が発祥だそうで(メリタはドリッパーが、ハリオはガラスビーカーが発祥です)、素材選定や製法に一日の長があるのだそうです。実際、このフィルターは厚みがありながらしなやかさもあり、手触りが気持ちが良く使いやすいです。お店でも扱っていますので、一度お試しください。

ペーパードリッパーの話

baisadoでは、ホットコーヒーもアイスコーヒーも、ペーパードリップで作っています。

ドリップ式抽出(プアオーバー(「上から注ぐ」の意味)とも呼ばれます)は、ドリッパーに溜めたコーヒーの粉にお湯を注いで成分を抽出し、それを紙、布、金属などのフィルターで濾過して、ドリッパーに開いた穴から排出させる淹れ方です。

抽出と濾過が同時進行するのがドリップ式の特徴で、注ぐお湯の温度や速度、フィルターの素材やドリッパーの形状によって、濃さや味わいを自由に変えることができます。

中でもペーパードリップは、フィルターとドリッパーが独立しているため、布や金属メッシュのような一体型フィルターに比べ、扱いが容易です。ドイツの女性メリタさんが発明し、その後世界中に普及しました。
https://www.melitta.co.jp/about/history.html

ところで、ドリッパーの穴の数や大きさがメーカーによって異なり、淹れ方も異なることをご存知でしたか?

元祖メリタは、小さな一つ穴の台形ドリッパーです。人数分のお湯を一度に注ぎ、粉をお湯にじっくり浸すことで、少量の粉でもしっかりと抽出することができます。どちらかと言えばお茶やフレンチプレスに近い抽出方法で、安定した味わいのコーヒーを作りやすいドリッパーです。

同じ台形ドリッパーでもカリタは三つ穴で、一つ穴よりも速くコーヒーが排出される分、粉がお湯に触れる時間が短くなります。そこで、少し粉を多めにし、注いだお湯が粉に触れる時間を長くするため、お湯を何回かに分けて注ぎます。

これに対し、ハリオなどの円錐形ドリッパーは大きな一つ穴で、さらに速くお湯が排出されるため、ゆっくり注げばしっかりとした味わいに、速く注げばあっさりとした味わいになります。自由に味を作れるとも、同じ味を出すのが難しいとも言えます。

ちなみにbaisadoでは、サイズによって穴の数が異なる、三洋産業製の業務用台形ドリッパーを使っています。メリタよりも少し穴が大きいため、お湯の抜けが程よく、スッキリした味わいのコーヒーを安定的に作れます。

これらは良し悪しというより、好みの問題です。プラスチック製なら値段もそれほど高くありませんので、たまにはいつもと違うドリッパーを使って、味の違いを比較してみてはいかがでしょう。

ペーパードリップのもう一つの(本当はドリッパーよりも大事な)ポイント、ペーパーフィルターの話は、また次回に。