大学の医学部にお勤めの微生物学者が、とても「濃い」コーヒー本を出しておられます。今回はそのうち比較的入手しやすい2冊をご紹介します。まずはこちら。
コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか(旦部 幸博著・講談社ブルーバックス)
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000194917
植物としての「コーヒーノキ」の起源や成長過程、人間がコーヒーのおいしさを感じるメカニズム、コーヒーの焙煎中に産み出される多様な化学物質、コーヒーが健康に与える影響など、コーヒーに関する「理系」的な知識が満載です。
個人的に貴重だと思うのは、家庭での焙煎方法の具体的な記述です。私たちもかつてこの本を片手に、銀杏煎り用の手網で焙煎してみたことがあります。上手には焼けませんでしたし、チャフが周囲に飛び散るので後片付けが大変でしたが、そこそこ飲めるコーヒーができて嬉しかったです。また、豆の爆ぜる音や時間の経過に伴う色や形の変化を体感できたのはとても勉強になりました。
もう一冊はこちらです。
珈琲の世界史(旦部 幸博著・講談社現代新書)
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000210931
「理系」的な講談社ブルーバックスでは控えめにしておられたコーヒーの歴史的な側面を、「文系」的な講談社現代新書で思う存分書いておられます。
この本の特徴は、時系列を追った「縦」の歴史だけでなく、同時代の各地域間の相互関係や当時の社会経済などの「横」の歴史にも着目していることです。
ウィーン初のカフェと言われる「青い瓶の下の家」の逸話から名前を取ったのがあの「ブルーボトル・コーヒー」だとか、イギリスからの独立のきっかけとなった「ボストン茶会事件」以後アメリカで普及したのが、それまで親しんでいた紅茶のような味わいの浅煎りコーヒー、すなわち「アメリカン・コーヒー」だったとか、コーヒー栽培の島だったスリランカがさび病の蔓延で壊滅的打撃を受けたとき、代わりに紅茶栽培を思いついたのがあのサー・トーマス・リプトンだったとか、思わず膝を打つエピソードがふんだんに出てきます。
どちらの本も、科学者の目線で編まれただけあって情報の確実性が高く、新書とは思えないほど読み応えがあります。読了するには少し骨が折れるかもしれませんが、コーヒーについて多面的な知識を得たい方には大変おすすめです。