ササキスポーツ看板撤去

お隣の老舗ラグビーショップ「ササキスポーツ」さんが、昨日お店の看板を降ろされました。

隣でガンガン大きな音がしているなと外に出てみると、看板はもう鉄柱から切り落とされた後で、トラックに積み込まれる直前、業者さんに頼んで写真を撮らせてもらうのが精一杯でした。

戦前からここで商いを続けてこられたと伺っており、我々も開店当初よりお世話になってきました

営業を終了されたのかどうかはまだお聞きしていませんが、見慣れた景色が変わってしまい、ちょっとショックです。

baisadoの本棚から(8)

昨年ご紹介したこの本に続編が出ました。

大阪 喫茶店クロニクル

京都よりも広い大阪の、京都よりも多様な喫茶店の歴史が、コンパクトながら濃密に記されている本です。

ビジネス街で100年以上続く小さなお店、建築家の設計による繁華街の豪華なお店、いまや焙煎機メーカーとして有名な会社の意外な出自など、戦前・戦後・現在にわたる大阪の喫茶店や焙煎業者の情報が満載です。まだ行ったことのないユニークなお店がいくつも載っており、行ってみたくなりました。

先日著者が講師を務めるイベントに参加する機会がありましたが、実際にお店に足を運んで関係者から直接仕入れられたお話はリアリティに富み、とても興味深かったです。

大阪の喫茶店の歴史的な繋がりを学ぶもよし、この本を片手に喫茶店巡りをするもよし。お店に置いてありますので、ご来店の際にはぜひどうぞ。

ファーメンテーションコーヒー

「焙煎で生豆の産地は変えられない」

私たちがコーヒー焙煎を教わった方がよくおっしゃることです。生豆の個性の違いは産地や品種によるものであって、焙煎によってその個性を変えることはできない、という教えです。

ところが最近、生豆の個性を変える技術が急速に発展しています。ファーメンテーション(発酵処理)です。

これまでも、コーヒーの生豆作りには醗酵技術が使われてきました。コーヒーの果実をそのまま天日干しするナチュラル(非水洗式精選)では、発酵した果肉の風味が(良くも悪くも)生豆に移ります。また果肉を剥ぎ取って殻(パーチメント)付きで生豆を乾燥させるウォッシュト(水洗式精選)では、果皮を剥がした果実を水槽に漬け、水中の微生物の活動によって果肉を除去します。

しかしファーメンテーションでは、より積極的に発酵技術を活用します。具体的には、密閉タンクに果実を投入して長時間発酵させることで、これまでの精選方法では出せない独自の風味を生豆に染み込ませます。その際、果実に付いている天然の微生物を用いる場合も、微生物を添加する場合もあるようです。

ナチュラルやウォッシュトでは酸素を用いる好気性発酵(アエロビック・ファーメンテーション)が行われるのに対し、発酵処理の多くでは酸素を用いない嫌気性発酵(アナエロビック・ファーメンテーション)が行われます。嫌気性発酵を行う代表的な微生物は乳酸菌で、伝統的な生酛造りの日本酒に感じるような明るい酸味が生じます。

最近試験的に取り扱ったブラジル産の生豆は、乳酸発酵の後にアルコール発酵を行う「ダブル・アナエロビック・ファーメンテーション」処理が施されていましたが、焙煎したコーヒーはハーブやスパイスを感じるインドネシア・マンデリンのような風味、あるいは華やかな柑橘香をまとったエチオピア・モカのような風味で、とても興味深いものでした。

つまりファーメンテーションは、狙った風味を生産者が自ら作り出せる、「ブラジルの生豆でマンデリンやモカの生豆を作る」ような技術です。生産者が生豆の付加価値を高めようとするのは当然のことですので、研究開発や設備投資に相応のコストがかかるものの、この技術は今後ますます広まると予想されます。

今後世界情勢や気候の変動によってマンデリンやモカのコーヒーが手に入らなくなったら、我々はファーメンテーションコーヒーに頼ることになるかもしれません。今後の展開を引き続きウォッチしていこうと思っています。

ペーパーフィルターの話

前回のブログの続きです。

ペーパードリップでは、ドリッパーとペーパーフィルターがそれぞれ別の働きをしています。

ペーパーフィルターは、ドリッパーに溜まったお湯とコーヒーの粉の混合液から、エキス分が溶けたコーヒーだけを濾し取るための「濾紙」です。微粉などの個体はキャッチしつつ液体だけを透過するためには、すぐに目詰まりしてしまわないよう、フィルターにある程度の厚みが必要です。濾紙の表面にクレープ(僅かな凹凸)を作る、クレープを片面だけでなく両面に作る、そもそもフィルター自体を波型にするなど、メーカーごとにさまざまな工夫が行われています。

一方ドリッパーには、フィルターで濾過されたコーヒーを素早く排出することが求められます。そのためドリッパーの内面には「リブ(肋骨の意味)」と呼ばれる筋状の突起があり、ドリッパーとフィルターの間に空気層を作ることで、ドリッパーとフィルターの密着を防いでいます。フィルターのクレープや波型も「リブ」と同じ効果を狙ったものですし、壁面を波型にしたドリッパーも同様の工夫です。

このようにドリッパーとフィルターの密着を防ぐための様々な工夫がなされていることを考えると、ドリッパーにフィルターをセットした状態でお湯を注ぐ「リンス」と呼ばれる作業は、やらないほうがよいことになります。ドリッパーを温めたいだけなら、フィルターをセットする前にお湯を注ぐほうがよいですし、もしフィルターの匂いが気になるのなら、茶色いフィルターではなく酸素漂白された白いフィルターを用いれば大丈夫です。

baisadoでは、ドリッパーと同じ三洋産業製のフィルターを使っています。三洋産業はフィルター製造が発祥だそうで(メリタはドリッパーが、ハリオはガラスビーカーが発祥です)、素材選定や製法に一日の長があるのだそうです。実際、このフィルターは厚みがありながらしなやかさもあり、手触りが気持ちが良く使いやすいです。お店でも扱っていますので、一度お試しください。

ペーパードリッパーの話

baisadoでは、ホットコーヒーもアイスコーヒーも、ペーパードリップで作っています。

ドリップ式抽出(プアオーバー(「上から注ぐ」の意味)とも呼ばれます)は、ドリッパーに溜めたコーヒーの粉にお湯を注いで成分を抽出し、それを紙、布、金属などのフィルターで濾過して、ドリッパーに開いた穴から排出させる淹れ方です。

抽出と濾過が同時進行するのがドリップ式の特徴で、注ぐお湯の温度や速度、フィルターの素材やドリッパーの形状によって、濃さや味わいを自由に変えることができます。

中でもペーパードリップは、フィルターとドリッパーが独立しているため、布や金属メッシュのような一体型フィルターに比べ、扱いが容易です。ドイツの女性メリタさんが発明し、その後世界中に普及しました。
https://www.melitta.co.jp/about/history.html

ところで、ドリッパーの穴の数や大きさがメーカーによって異なり、淹れ方も異なることをご存知でしたか?

元祖メリタは、小さな一つ穴の台形ドリッパーです。人数分のお湯を一度に注ぎ、粉をお湯にじっくり浸すことで、少量の粉でもしっかりと抽出することができます。どちらかと言えばお茶やフレンチプレスに近い抽出方法で、安定した味わいのコーヒーを作りやすいドリッパーです。

同じ台形ドリッパーでもカリタは三つ穴で、一つ穴よりも速くコーヒーが排出される分、粉がお湯に触れる時間が短くなります。そこで、少し粉を多めにし、注いだお湯が粉に触れる時間を長くするため、お湯を何回かに分けて注ぎます。

これに対し、ハリオなどの円錐形ドリッパーは大きな一つ穴で、さらに速くお湯が排出されるため、ゆっくり注げばしっかりとした味わいに、速く注げばあっさりとした味わいになります。自由に味を作れるとも、同じ味を出すのが難しいとも言えます。

ちなみにbaisadoでは、サイズによって穴の数が異なる、三洋産業製の業務用台形ドリッパーを使っています。メリタよりも少し穴が大きいため、お湯の抜けが程よく、スッキリした味わいのコーヒーを安定的に作れます。

これらは良し悪しというより、好みの問題です。プラスチック製なら値段もそれほど高くありませんので、たまにはいつもと違うドリッパーを使って、味の違いを比較してみてはいかがでしょう。

ペーパードリップのもう一つの(本当はドリッパーよりも大事な)ポイント、ペーパーフィルターの話は、また次回に。

100年前のbaisado界隈

京都にいると、いま自分のいる場所が昔はどんなところだったかと、つい想像してしまいます。

baisadoは「京都市左京区下鴨西半木町(しもがもにしはんぎちょう)」にあります。ここは1918年まで「愛宕(おたぎ)郡下鴨村」、つまり京都市外でした。

店の周辺はその頃どんなだったんだろうと、1926年に発行された地図と現在の地図を比較してみました。右の地図の「○」がbaisadoの場所です。

この地図は、時系列地形図閲覧サイト「今昔マップ on the web」((C)谷 謙二)により作成したものです。

左の地図を見ると、右上から左下へと流れる琵琶湖疏水分線(1890年開通)、上部中央の京都府立農林学校(現在の京都府立大学・1918年桂から移転)、その隣の京都府立植物園(1924年開園・今年設立100周年です)のほかは、ほぼ一面の田んぼです。

地図左上から右下へ流れる賀茂川には2本の橋が掛かっています。下の橋は現存する出雲路橋で、鞍馬へと続く街道の起点でした。橋の西詰から鴨川を渡るとすぐに鞍馬街道は左に折れ、現在の下鴨中通を北上します。北大路通より南の下鴨中通は今も狭くてくねくねしており、往時を彷彿させます。

左の地図のもう一つの橋は、右の地図にはない中賀茂橋(1917年完成)で、橋の東詰から鞍馬街道に向かってまっすぐ道が伸びています。右の地図にある北大路橋は1933年の完成で、この頃はまだ北大路通自体ありませんでした。その後中賀茂橋は1935年の大雨で流されてしまい、いまは下鴨中通へと向かう道だけが残っています。

つまりbaisadoは、中賀茂橋からの道と鞍馬街道とが出会う三つ辻辺りに立地していたのでした。お店の周辺はとても静かな環境ですが、もしかすると100年前はもっと賑わっていたのかもしれません。

また、お店の前の道が賀茂川に突き当たる場所には、店名の由来である売茶翁の没後二百五十年記念碑が、枝垂桜の下にひっそりと建っています。売茶翁こと高遊外は黄檗宗の僧侶でしたが、還暦を前に還俗して肥前佐賀から京へと上り、鴨川のほとりなどで道ゆく人々に煎茶を振る舞ったそうです。

お店を借りた直後にこの碑の存在を知り、さらに今回土地の由緒を知り、ますますこの場所が好きになりました。皆さんも、いま自分のいる場所が昔はどんなところだったか、調べてみませんか。

参考文献:

京極れきし再発見24「鞍馬口と鞍馬街道」(京都出町・でまち倶楽部「京都・出町観光案内」)

「名誉園長の部屋No.13」(京都府「京都府立植物園『名誉園長の部屋』」)

baisadoの本棚から(7)

「お店でコーヒーを焙煎しています」と自己紹介すると「あぁ、カフェやってるんですね」と言われることがあります。

焙煎コーヒー豆が買えて、コーヒーも飲めるものの、フードもスイーツもメニューにない店を何と呼ぶべきか、今でもちょっと迷いますが、自分たちとしては「コーヒー屋」だと思っています。

今回は、伝説のコーヒー屋のマスター二人の対談本をご紹介します。

珈琲屋
https://www.shinchosha.co.jp/book/351891/

かつて東京・表参道にあった「大坊(だいぼう)珈琲店」の大坊勝次マスターと、惜しくも69歳で亡くなられた福岡「珈琲美美(びみ)」の森光宗男マスター。同い年生まれ、ネルドリップでコーヒーを淹れる、珈琲屋という商売を突き詰めているという共通点があるものの、会話から窺えるお二人の性格や思想は対照的です。

対談はお互いの店に相手を招く形で行われます。何事につけご自身の考えを明確に言葉にされる森光さんに誘われて、大坊さんもご自分の考えを吶々と、しかしはっきりと語られます。必ずしも見解が一致する訳ではありませんが、それぞれが時間をかけて練り上げたスタイルに、お互い敬意を払っておられる感じが伝わってきます。

大学に入学したての頃、先輩に連れられて入った自家焙煎コーヒー店で生まれて初めてコーヒーを飲み(苦くてストレートでは飲めませんでした)、気がつけば通い詰めるようになっていました。その店もネルドリップでコーヒーを淹れていました。

時が経ち、美味しいと感じるコーヒーは変わりましたが、思えばその頃から漠然と「珈琲屋」という商売に憧れていた気がします。

コーヒーの指南書ではなく、大袈裟に言えば人生の歩み方について考えさせてくれるような本です。

くろまめ茶はじめました

店内で使っている小さなコーヒー焙煎機で、実はコーヒー生豆以外も焙煎できるという話を聞き、以前から興味を持っていました。

焙煎機の構造は、横置きで回転するドラムの上から生豆を落とし入れ、下から火を焚いてドラムを炙ると同時に、ドラムに開いた小さな穴を通じて熱風を送り込むという、シンプルなものです。そのため、あまり粒が大きいものでなければ焙煎できる(例えば栗は大き過ぎてダメな)のだそうです。

何を焙煎しようか考えた結果、コーヒーが苦手な方にもご提供できること、またむくみや冷えに効くと言われることなどから、黒豆を焙煎することにしました。

baisadoでの生豆の扱いと同じく、さっと洗って乾かした後、生豆と同じ火加減で焼き始めると、数分でプツッと小さな音がして、表面の黒皮が横に割れ始めます。さらに焼き続けると、白いお腹が徐々に色づき始め、煎り豆の良い香りが漂ってきます。こんがりといい色になったら焙煎機から取り出して、自家製焙煎黒豆の出来上がり。このままポリポリ食べても香ばしくておいしいです。

煎りたての黒豆を急須に入れ、お湯を注いで3分ほど待つと、深紫色の液体になりました。口に含むと柔らかい喉越しと鼻に抜ける焙煎香。とてもおいしいです。二煎目も問題なくいただけます。さらに、飲み終わったら柔らかく膨らんだ黒豆もいただけます。

お店では急須でお出しして好評ですが、ご自宅でもお楽しみいただけるよう、器具のいらないドリップバッグもご用意しました。ぜひ一度お試しください。

自家焙煎くろまめ茶(ドリップバッグ)

https://baisado.theshop.jp/items/83842103

冷めたコーヒー

皆さんは「熱々のコーヒー」と聞いて、どんな感じを受けますか?季節が冬ならば「飲みたい!」、夏ならば「飲みたくない!」でしょうか。

では、「冷めたコーヒー」と聞くとどうでしょう。季節によらず「あまり飲みたくない」と思われるかもしれませんね。

でも実は、コーヒーは冷めてもおいしいのです。というより、冷めたコーヒーには、熱々のコーヒーとは別のおいしさがあるのです。

コーヒーを飲んだ時に感じる味は主に苦味・甘味・酸味ですが、舌の表面に分布する味覚センサー「味蕾(みらい)」は温度によって感受性に差があり、温度が高いと苦味を感じにくく、甘味は体温前後で最も感じやすい一方、酸味は温度によって感じ方があまり変わらないそうです。

(例えば)https://www.city.sanjo.niigata.jp/material/files/group/17/000089859.pdf

そうすると、熱々のコーヒーは(苦味と甘味を感じにくいので)酸味を強く感じ、冷めたコーヒーは(甘味を感じにくいので)酸味と苦味を強く感じるはずです。

これは、(酸味成分の多い)浅煎りのコーヒーは熱々でも冷めても酸味を強く感じる、(苦味成分の多い)深煎りのコーヒーは冷めるにつれ苦く感じる、アイスコーヒーには砂糖やシロップをたくさん入れないと甘いと感じられない、といった自分の経験とも一致します。

逆に考えれば、ホットコーヒーは冷ましながら飲むことで「味変」すると言えます。「温かく出されたものは冷めないうちに」と料理のようには考えず、ゆっくり時間をかけて、熱々のコーヒー、ぬるいコーヒー、冷めたコーヒーそれぞれの味わいを楽しんでみませんか。

ブレンドしてみよう

コーヒーの香りや味わいは、生産国・産地・品種・精製方法などにより千差万別です。baisadoでは、それら生豆の個性の違いを楽しんでいただきたいと思いながら焙煎しています。

一方で、異なる個性を組み合わせるとどうなるのか、という楽しみ方もあります。それがブレンドです。

「組み合わせて違う味を作る」ことがブレンドの醍醐味です。力強さが特徴の豆と華やかさが特徴の豆、甘味が特徴の豆と酸味が特徴の豆など、組み合わせは自由かつ無限ですが、セオリーとしてはこんなことが言われています。

・異なる特徴の豆を組み合わせる

・個性の弱い豆をメインに、強い豆をサブに

・2種類の組み合わせから始め、あまり複雑にしない(できれば3種類以内で)

baisadoでは、これまで6つのブレンドを作りました。自分たちがおいしいと納得できたものばかりですが、これからも新しいブレンドを作ってみたいと思っています。

ただ、感覚や好みは主観的なものですので、万人にウケるブレンドはないと思います。皆さんも、ご自身の「おいしい」や「好き」を頼りに、自由にブレンドして飲んでみませんか?狙い通りの味わいになれば嬉しいですし、予想外の結果になってもまた楽し、です。そしてもし「これは」というブレンドができたら、ぜひ教えてください。