baisadoの本棚から(4)

京都には、ユニークな喫茶店が数多くあり、歴史ある店と新店が共存しています(僭越ながらbaisadoも)。

今回は、そんな京都の喫茶店史を俯瞰できる本をご紹介します。

京都喫茶店クロニクル 古都に薫るコーヒーの系譜

明治期の大学生に重宝された「ミルクホール」や、お酒も飲ませる大正期の「カフェー」から話は始まり、昭和初期にオープンし今も現役の「進々堂」「フランソア」「築地」や、戦後すぐにオープンした「イノダコーヒ」「スマート珈琲店」「喫茶ソワレ」など、店と人の両面から京都の喫茶店の歴史を紐解いており、興味がつきません。

京都に出てきてすぐの頃、大学の先輩に連れられて行った喫茶店のコーヒーを、初めは濃すぎて飲めませんでした。しかしそのうちそれが当たり前になり、毎日通う行きつけの店になりました。コーヒーの美味しさと面白さを教えてくれた、その店の店主が修行したお店も取り上げられており、ちょっと嬉しくなりました。

最近話題のお店までしっかりカバーしているこの本を片手に、京都の喫茶店巡りはいかがでしょうか。

baisadoの本棚から(3)

今回は大判のビジュアル本をご紹介します。

ビジュアル スペシャルティコーヒー大事典 2nd Edition

「ナショナルジオグラフィック」という雑誌から出ており、最初はちょっと不思議な感じがしましたが、内容を見て納得。世界のコーヒー生産国が地域別に詳しく紹介されており、写真も満載。コーヒー好きの方はもちろん、地理好きの方にも楽しめる内容です。

本の前半は、世界チャンピオンになったこともあるイギリス人バリスタが、植物としてのコーヒーとその飲用の歴史や、自宅で美味しくコーヒーを楽しむためのコツなどを、分かりやすく解説しています。

どこから読んでも楽しめて、写真を眺めるだけでもワクワクする、そんな本です。値段と大きさが玉に瑕ですが、図書館などで見つけられたら、是非一度ご覧になってください。お店でもご覧になれますよ。

baisadoの本棚から(2)

タイトルを変えて、お店に並べている本をご紹介していきます。

今回は、川島良彰著「コーヒーハンター」です。

コーヒーハンター―幻のブルボン・ポワントゥ復活

街の自家焙煎コーヒー屋の息子が、高校卒業と同時に実家を飛び出して中米エルサルバドルでコーヒー栽培技術を学び、その経歴を見込まれ日本最大のコーヒー会社に就職、ジャマイカ、ハワイ、スマトラなど世界のコーヒー名産地を飛び回り、ついにはフランス領レユニオン島で幻のコーヒー品種を現地スタッフと協力して復活させる、というお話です。

これがなんと実話。著者の飾らず率直な筆致に引き込まれ、一気に読んでしまいました。

コーヒーに関する知識や現地事情(必ずしも良いことばかりではなく)が分かるだけでなく、裸一貫で世界を雄飛する日本人の冒険譚としても楽しめます。

著者は現在超高級コーヒーブランドを立ち上げる一方、「コーヒーで世界を変える」べく様々な活動に取り組んでおられます。これまた15年前に出版された古い本ですが、もし見つけたらぜひ一度読んでみてください。

コーヒーにまつわる本(その1)

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

年明けにちなみ(?)、コーヒーにまつわる本をいくつかご紹介しようと思います。

第1回は、石脇智広著「コーヒー『こつ』の科学」です。

コーヒー「こつ」の科学―コーヒーを正しく知るために

15年も前の本で、見た目も地味ですが、コーヒーに関するさまざまな情報が、とても親しみやすい、しかし科学的な裏付けのある言葉で、コンパクトにまとめられています。

副題に「コーヒーを正しく知るために」とあるように、「これが正解」とか「こんな時はこうすればよい」という断定的な表現がほとんどなく、「科学的にはここまでは言える、でも結局は好みだから」と、最終的な判断を読み手に委ねてくれています。著者はコーヒー商社の社長さんで、学生時代コーヒーにハマり、研究者としてコーヒー業界に入られたそうです。

お店を始めるなんて考えもしていなかった頃、なんとなくの直感でこの本を手に取り、その時も面白く読んでいたのですが、いま改めて読み直してみると、一つ一つの情報が実感を伴って頭に入ってきます。立場にかかわらず楽しく読めて役に立つ、おすすめの本です。

摘みたて・焼きたて・挽きたて・淹れたて

 「焼きたてのパン」「揚げたてのトンカツ」「搾りたての日本酒」。どれも聞くだけで美味しそうです。「〜たて」という言葉は、食品の新鮮さを強くアピールしてくれます。

 コーヒーも食品ですので、新鮮さは重要です。ただしコーヒーの新鮮さといっても、摘みたての生豆、焼きたての焙煎豆、挽きたてのコーヒーの粉、淹れたてのコーヒーと、いろいろあります。

 このうち違いが一番分かりやすいのは「挽きたて」でしょうか。焙煎豆を挽くと、空気に触れる面積がずっと大きくなるため、酸素や日光の影響を受けやすくなってしまいます。粉が酸化すると、おいしい「酸味」とは異なる、飲みにくい「酸っぱさ」が感じられるようになりますので、挽いた豆は密封容器に入れて冷暗所に保管し、できるだけ早めに飲み切ることをお奨めします。

 年内に収穫された「摘みたて」の生豆は、「ニュークロップ(新豆)」と呼ばれ珍重されます。収穫から日の浅い生豆には爽やかな草のような香りがあり、淹れたコーヒーの香りや味わいも力強いように感じます。日本では、早ければ10月ごろ、ブラジル産のニュークロップが店頭に並び、他国産もその後ニュークロップに切り替わっていきます。これは良い悪いというよりも「秋から冬のお楽しみ」と捉えています。

 焙煎豆については、必ずしも「焼きたて」が最高とは限らない、と感じています。コーヒーの香り成分の多くは揮発性が高いため、焙煎直後の豆を使えば最も風味豊かなコーヒーになるはずなのですが、焙煎直後の豆は炭酸ガスが活発に放出しているため、ドリッパーにお湯を注いだ際に粉が膨らみ過ぎ、成分を抽出しきれない場合があるのです。

 焙煎後一晩寝かせると、炭酸ガスの放出ペースが落ちて豆が落ち着き、成分がしっかり抽出される印象があります。豆のまま密封容器に保管すれば、粉よりも長期間風味を保てますので、通常baisadoでは、焙煎後1〜2週間は寝かせた豆を使ってコーヒーをお出ししています。

 最後に「淹れたて」については、時間の経過とともに風味の変化を楽しむものだと考えています。淹れたてのコーヒーは温度が高いため、比較的酸味が強く感じられますが、時間が経過して温度が下がると、今度は甘みが強く感じられるようになります。baisadoの生豆は、焙煎前に洗って干していますので、時間が経っても飲みにくくはならず、風味の変化を素直に感じていただけるはずです。

 ですので、「挽きたて」以外は劣化ではなく変化であると捉えて、さまざまな条件の違いを楽しんでいただければと思います。

冬の新豆(その1)

 お米に「新米」、お酒に「新酒」があるように、コーヒーにも「新豆」があります。baisadoでも、いよいよ今年収穫された新豆(ニュークロップ)をお届けします。第一弾はこちら。

ブラジル セラード 一番摘み ブルボン 22/23

 今回は、これまでご提供していた「セラード 山口農園 ブルボン」より一足先にニュークロップに切り替わった、同じセラード地域の別の農園(コンゴーニアス農園)産の生豆を仕入れました。

 生豆がたっぷり入った袋を開けた時の第一印象は「香りが強い」こと。焙煎豆の香りとは全く異なりますが、草のような青い香りがふんわりと辺りに漂い、生豆は植物なんだと実感させられます。

 また「山口農園」はナチュラル(非水洗式精選)ですが、今回の一番摘みはセミウォッシュト(半水洗式精選)ですので、同じ伝統品種のブルボンでもキャラクターの違いを感じられるかもしれません。

 冬の楽しみ、ニュークロップをぜひ一度お試しください。

https://baisado.theshop.jp/items/69378487

秋の新豆(その2)

 先日のインドネシアに続き、11月に入荷した新しい豆をご紹介します。初登場のエチオピア産です。

エチオピア イルガチェフェ アダメ G1 Natural

 エチオピアはコーヒーの原産地で、現在も世界第5位のコーヒー生産国です(2020年・国際コーヒー機関調べ)。エチオピアのコーヒーは、紅海を挟んだ対岸の国イエメンとともに、古くから「モカ」と呼ばれ親しまれてきました(ちなみに「モカ」は紅海に面したイエメンの港の名前です)。

 エチオピアでは現在も野生種に近いコーヒーが栽培されており、特に南部ゲデオ県イルガチェフェ郡周辺のコーヒーは品質が高いとされています。生豆は他国のものに比べ小粒で、焙煎中には柑橘系の香りがほのかに漂います。抽出されたコーヒーには、明るく爽やかな酸味と穏やかな柑橘香が感じられます。

 イルガチェフェのコーヒーは水洗式(ウォッシュト)で作られることが多いそうですが、今回はエチオピア伝統の非水洗式(ナチュラル)で作られた生豆を選びました。「アダメ」とは現地の言葉で「サボテン」の意味があるそうです。また「G1」はエチオピアコーヒーの最高グレードを意味します。香り高く爽やかな味わいのコーヒーを、ぜひ一度お試しください。

https://baisado.theshop.jp/items/69144983

生豆の作り方

 生豆(なままめ)は、豆と言われていますが、実はコーヒーノキというアカネ科の植物の実に入っている種です。

 コーヒーノキの実(見た目から「コーヒーチェリー」と呼ばれます)は、外側から順にこんな構造になっています。

  • (外)果皮
  • 果肉
  • 粘質物(ペクチン類)
  • 内果皮(パーチメント)
  • 銀皮(シルバースキンあるいはチャフ)
  • 生豆

  コーヒーチェリーから生豆を取り出す作業は「精選」と呼ばれ、大きく3つの方式があります。

非水洗式(ナチュラル)

 コーヒーチェリーをゆっくりと天日乾燥させ、干し葡萄のようにしてから脱穀して一気に生豆を取り出します。水に乏しい高山の傾斜地で行われてきた伝統的な精選方法で、ブラジル・エチオピア・イエメンなどの国では現在でも主流の方式です。現在のbaisadoのラインナップでは、「ブラジル セラード 山口農園 ブルボン 天日乾燥 Natural」がこの方式で作られています。

水洗式(ウォッシュト)

 コーヒーチェリーの果皮と果肉を機械で除去してから水槽に浸け、水中の微生物の力で粘質物を分解します。その後水洗いして粘質物を取り除いてから乾燥させ、最後にパーチメントを脱穀します。大量の水が必要で、排水処理にもコストがかかりますが、水洗いの過程で未成熟な実を取り除くことができるため、非水洗式に比べてクリーンな味になると言われ、世界的に主流の精選方法です。現在baisadoでは、水洗式で精選された「グアテマラ アンティグア アゾテア農園 ブルボン SHB」「ケニア マサイ AA」「コロンビア ウイラ マグダレナ SUP」「ペルー カハマルカ アルパカ G1」を取り扱っています。

 両者の中間的な方法として、「セミウォッシュト」や「パルプドナチュラル」と呼ばれる精選方法があります。果皮と果肉を機械で除去するところまでは水洗式と同じですが、粘質物を機械で除去し、水槽に浸けずそのまま乾燥に入ります。空気中でわずかに発酵が進むため、非水洗式のような風味が生まれるうえ、粘質物の除去の度合いによって風味の差を生み出せるため、生産者側の工夫の余地が大きい方法です。

スマトラ式

 粘質物を水槽に浸けて水洗いするところまでは水洗式と同じですが、乾燥の途中でパーチメントを脱穀し、生豆を裸にしてから再度乾燥させる、インドネシアのスマトラ島で伝統的に行われている精選方法です。生豆で乾燥させるため全体の乾燥期間が短くできます。雨が多く長期間の天日干しが難しいための工夫でしたが、裸の生豆を乾燥させる過程で「マンデリン風味」と呼ばれるハーブのような独特な風味が生まれ、乾燥後は美しい深緑色になります。現在のbaisadoのラインナップでは、「インドネシア マンデリン ビンタンリマ G1」がスマトラ式で作られています。

 最近では、同じ場所で収穫されたコーヒーチェリーを、水洗式と非水洗式の両方で精選して出荷するケースも増えています。もしそのようなコーヒー豆に出会ったら、ぜひ両方購入して味わいの違いを確かめてみてください。

秋の新豆(その1)

 baisadoは少量ずつ焙煎しているため、生豆の仕入れも少量ずつ行なっています。自分たちが気に入り、お客さんにも気に入っていただいた豆はリピートしていますが、時々は新しい豆を試すことにしています。

 今月は、久しぶりにインドネシアの豆を入荷しました。

インドネシア マンデリン ビンタンリマ G1

 インドネシア・スマトラ島北部の、世界最大のカルデラ湖であるトバ湖周辺で生産されるコーヒーは、生産を主導した部族の名前を冠して「マンデリン」と呼ばれます。「スマトラ式」として知られる独自の精選方法(簡単に言えば、生乾きの状態で脱穀して豆を裸にしてしまう)による、シナモンやハーブに例えられる独特な風味が特徴です。一口飲んだ時のどっしりした力強さが印象的なコーヒーで、ミルクとの相性もバッチリです。

 インドネシア語で「ビンタン」は「星」、「リマ」は「5」の意味だそうですので、商品名の「ビンタンリマ」を意訳すれば「風味・品質5つ星!」という感じでしょうか。また、G1はインドネシアのコーヒーの品質等級で、欠点豆が最も少ないものにグレード1(G1)が与えられます。

https://baisado.theshop.jp/items/68289000

 11/5(土)から店頭およびオンラインショップで取り扱っています。ぜひ一度お試しください。

半年経ちました

不動産屋さんからお店の鍵を預かったのが去年の12/27。焙煎機がお店にやってきたのが2/13。開業届を出したのが4/1。そして初めて店を開けたのが4/30。

気が付けば開店して今日で半年。お店での一日一日はすごく長く感じられているのに、振り返ればあっという間だった。

平日の朝に自宅で生豆を洗って干し、土曜の開店前に豆を焼き、焼きたての豆の味見をしながら静かに店番し、お客さんがいらしたら精一杯応対し、合間に交代でお昼をいただき、閉店後は洗い物と掃除と手入れを手早く済ませ、近所で軽く一杯引っ掛けて帰る。日曜も同じ。次の週も同じ。

大きく見れば同じことの繰り返しだけど、設備や道具を少しずつ増やし、作業動線や役割分担も少しずつ改善して、半年前に比べればだいぶお店らしくなった。と思う。立ち寄ってくださるお客さんも少しずつ増えている。と思う。自分たちも店員らしくなってきた。と思う。

土日に働く生活を半年続けて、身体は少し疲れているけれど、心は満ち足りている。豆を焼くこと、コーヒーを淹れること、店内からのんびりと外を眺めること、全てがただただ楽しい。お客さんにも楽しんでもらえていたら、なお嬉しい。

こんな調子のマイペースなお店ですが、これからもどうぞよろしくお願いします。