コーヒーにまつわる本(その1)

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

年明けにちなみ(?)、コーヒーにまつわる本をいくつかご紹介しようと思います。

第1回は、石脇智広著「コーヒー『こつ』の科学」です。

コーヒー「こつ」の科学―コーヒーを正しく知るために

15年も前の本で、見た目も地味ですが、コーヒーに関するさまざまな情報が、とても親しみやすい、しかし科学的な裏付けのある言葉で、コンパクトにまとめられています。

副題に「コーヒーを正しく知るために」とあるように、「これが正解」とか「こんな時はこうすればよい」という断定的な表現がほとんどなく、「科学的にはここまでは言える、でも結局は好みだから」と、最終的な判断を読み手に委ねてくれています。著者はコーヒー商社の社長さんで、学生時代コーヒーにハマり、研究者としてコーヒー業界に入られたそうです。

お店を始めるなんて考えもしていなかった頃、なんとなくの直感でこの本を手に取り、その時も面白く読んでいたのですが、いま改めて読み直してみると、一つ一つの情報が実感を伴って頭に入ってきます。立場にかかわらず楽しく読めて役に立つ、おすすめの本です。

摘みたて・焼きたて・挽きたて・淹れたて

 「焼きたてのパン」「揚げたてのトンカツ」「搾りたての日本酒」。どれも聞くだけで美味しそうです。「〜たて」という言葉は、食品の新鮮さを強くアピールしてくれます。

 コーヒーも食品ですので、新鮮さは重要です。ただしコーヒーの新鮮さといっても、摘みたての生豆、焼きたての焙煎豆、挽きたてのコーヒーの粉、淹れたてのコーヒーと、いろいろあります。

 このうち違いが一番分かりやすいのは「挽きたて」でしょうか。焙煎豆を挽くと、空気に触れる面積がずっと大きくなるため、酸素や日光の影響を受けやすくなってしまいます。粉が酸化すると、おいしい「酸味」とは異なる、飲みにくい「酸っぱさ」が感じられるようになりますので、挽いた豆は密封容器に入れて冷暗所に保管し、できるだけ早めに飲み切ることをお奨めします。

 年内に収穫された「摘みたて」の生豆は、「ニュークロップ(新豆)」と呼ばれ珍重されます。収穫から日の浅い生豆には爽やかな草のような香りがあり、淹れたコーヒーの香りや味わいも力強いように感じます。日本では、早ければ10月ごろ、ブラジル産のニュークロップが店頭に並び、他国産もその後ニュークロップに切り替わっていきます。これは良い悪いというよりも「秋から冬のお楽しみ」と捉えています。

 焙煎豆については、必ずしも「焼きたて」が最高とは限らない、と感じています。コーヒーの香り成分の多くは揮発性が高いため、焙煎直後の豆を使えば最も風味豊かなコーヒーになるはずなのですが、焙煎直後の豆は炭酸ガスが活発に放出しているため、ドリッパーにお湯を注いだ際に粉が膨らみ過ぎ、成分を抽出しきれない場合があるのです。

 焙煎後一晩寝かせると、炭酸ガスの放出ペースが落ちて豆が落ち着き、成分がしっかり抽出される印象があります。豆のまま密封容器に保管すれば、粉よりも長期間風味を保てますので、通常baisadoでは、焙煎後1〜2週間は寝かせた豆を使ってコーヒーをお出ししています。

 最後に「淹れたて」については、時間の経過とともに風味の変化を楽しむものだと考えています。淹れたてのコーヒーは温度が高いため、比較的酸味が強く感じられますが、時間が経過して温度が下がると、今度は甘みが強く感じられるようになります。baisadoの生豆は、焙煎前に洗って干していますので、時間が経っても飲みにくくはならず、風味の変化を素直に感じていただけるはずです。

 ですので、「挽きたて」以外は劣化ではなく変化であると捉えて、さまざまな条件の違いを楽しんでいただければと思います。

冬の新豆(その1)

 お米に「新米」、お酒に「新酒」があるように、コーヒーにも「新豆」があります。baisadoでも、いよいよ今年収穫された新豆(ニュークロップ)をお届けします。第一弾はこちら。

ブラジル セラード 一番摘み ブルボン 22/23

 今回は、これまでご提供していた「セラード 山口農園 ブルボン」より一足先にニュークロップに切り替わった、同じセラード地域の別の農園(コンゴーニアス農園)産の生豆を仕入れました。

 生豆がたっぷり入った袋を開けた時の第一印象は「香りが強い」こと。焙煎豆の香りとは全く異なりますが、草のような青い香りがふんわりと辺りに漂い、生豆は植物なんだと実感させられます。

 また「山口農園」はナチュラル(非水洗式精選)ですが、今回の一番摘みはセミウォッシュト(半水洗式精選)ですので、同じ伝統品種のブルボンでもキャラクターの違いを感じられるかもしれません。

 冬の楽しみ、ニュークロップをぜひ一度お試しください。

https://baisado.theshop.jp/items/69378487

秋の新豆(その2)

 先日のインドネシアに続き、11月に入荷した新しい豆をご紹介します。初登場のエチオピア産です。

エチオピア イルガチェフェ アダメ G1 Natural

 エチオピアはコーヒーの原産地で、現在も世界第5位のコーヒー生産国です(2020年・国際コーヒー機関調べ)。エチオピアのコーヒーは、紅海を挟んだ対岸の国イエメンとともに、古くから「モカ」と呼ばれ親しまれてきました(ちなみに「モカ」は紅海に面したイエメンの港の名前です)。

 エチオピアでは現在も野生種に近いコーヒーが栽培されており、特に南部ゲデオ県イルガチェフェ郡周辺のコーヒーは品質が高いとされています。生豆は他国のものに比べ小粒で、焙煎中には柑橘系の香りがほのかに漂います。抽出されたコーヒーには、明るく爽やかな酸味と穏やかな柑橘香が感じられます。

 イルガチェフェのコーヒーは水洗式(ウォッシュト)で作られることが多いそうですが、今回はエチオピア伝統の非水洗式(ナチュラル)で作られた生豆を選びました。「アダメ」とは現地の言葉で「サボテン」の意味があるそうです。また「G1」はエチオピアコーヒーの最高グレードを意味します。香り高く爽やかな味わいのコーヒーを、ぜひ一度お試しください。

https://baisado.theshop.jp/items/69144983

生豆の作り方

 生豆(なままめ)は、豆と言われていますが、実はコーヒーノキというアカネ科の植物の実に入っている種です。

 コーヒーノキの実(見た目から「コーヒーチェリー」と呼ばれます)は、外側から順にこんな構造になっています。

  • (外)果皮
  • 果肉
  • 粘質物(ペクチン類)
  • 内果皮(パーチメント)
  • 銀皮(シルバースキンあるいはチャフ)
  • 生豆

  コーヒーチェリーから生豆を取り出す作業は「精選」と呼ばれ、大きく3つの方式があります。

非水洗式(ナチュラル)

 コーヒーチェリーをゆっくりと天日乾燥させ、干し葡萄のようにしてから脱穀して一気に生豆を取り出します。水に乏しい高山の傾斜地で行われてきた伝統的な精選方法で、ブラジル・エチオピア・イエメンなどの国では現在でも主流の方式です。現在のbaisadoのラインナップでは、「ブラジル セラード 山口農園 ブルボン 天日乾燥 Natural」がこの方式で作られています。

水洗式(ウォッシュト)

 コーヒーチェリーの果皮と果肉を機械で除去してから水槽に浸け、水中の微生物の力で粘質物を分解します。その後水洗いして粘質物を取り除いてから乾燥させ、最後にパーチメントを脱穀します。大量の水が必要で、排水処理にもコストがかかりますが、水洗いの過程で未成熟な実を取り除くことができるため、非水洗式に比べてクリーンな味になると言われ、世界的に主流の精選方法です。現在baisadoでは、水洗式で精選された「グアテマラ アンティグア アゾテア農園 ブルボン SHB」「ケニア マサイ AA」「コロンビア ウイラ マグダレナ SUP」「ペルー カハマルカ アルパカ G1」を取り扱っています。

 両者の中間的な方法として、「セミウォッシュト」や「パルプドナチュラル」と呼ばれる精選方法があります。果皮と果肉を機械で除去するところまでは水洗式と同じですが、粘質物を機械で除去し、水槽に浸けずそのまま乾燥に入ります。空気中でわずかに発酵が進むため、非水洗式のような風味が生まれるうえ、粘質物の除去の度合いによって風味の差を生み出せるため、生産者側の工夫の余地が大きい方法です。

スマトラ式

 粘質物を水槽に浸けて水洗いするところまでは水洗式と同じですが、乾燥の途中でパーチメントを脱穀し、生豆を裸にしてから再度乾燥させる、インドネシアのスマトラ島で伝統的に行われている精選方法です。生豆で乾燥させるため全体の乾燥期間が短くできます。雨が多く長期間の天日干しが難しいための工夫でしたが、裸の生豆を乾燥させる過程で「マンデリン風味」と呼ばれるハーブのような独特な風味が生まれ、乾燥後は美しい深緑色になります。現在のbaisadoのラインナップでは、「インドネシア マンデリン ビンタンリマ G1」がスマトラ式で作られています。

 最近では、同じ場所で収穫されたコーヒーチェリーを、水洗式と非水洗式の両方で精選して出荷するケースも増えています。もしそのようなコーヒー豆に出会ったら、ぜひ両方購入して味わいの違いを確かめてみてください。

秋の新豆(その1)

 baisadoは少量ずつ焙煎しているため、生豆の仕入れも少量ずつ行なっています。自分たちが気に入り、お客さんにも気に入っていただいた豆はリピートしていますが、時々は新しい豆を試すことにしています。

 今月は、久しぶりにインドネシアの豆を入荷しました。

インドネシア マンデリン ビンタンリマ G1

 インドネシア・スマトラ島北部の、世界最大のカルデラ湖であるトバ湖周辺で生産されるコーヒーは、生産を主導した部族の名前を冠して「マンデリン」と呼ばれます。「スマトラ式」として知られる独自の精選方法(簡単に言えば、生乾きの状態で脱穀して豆を裸にしてしまう)による、シナモンやハーブに例えられる独特な風味が特徴です。一口飲んだ時のどっしりした力強さが印象的なコーヒーで、ミルクとの相性もバッチリです。

 インドネシア語で「ビンタン」は「星」、「リマ」は「5」の意味だそうですので、商品名の「ビンタンリマ」を意訳すれば「風味・品質5つ星!」という感じでしょうか。また、G1はインドネシアのコーヒーの品質等級で、欠点豆が最も少ないものにグレード1(G1)が与えられます。

https://baisado.theshop.jp/items/68289000

 11/5(土)から店頭およびオンラインショップで取り扱っています。ぜひ一度お試しください。

半年経ちました

不動産屋さんからお店の鍵を預かったのが去年の12/27。焙煎機がお店にやってきたのが2/13。開業届を出したのが4/1。そして初めて店を開けたのが4/30。

気が付けば開店して今日で半年。お店での一日一日はすごく長く感じられているのに、振り返ればあっという間だった。

平日の朝に自宅で生豆を洗って干し、土曜の開店前に豆を焼き、焼きたての豆の味見をしながら静かに店番し、お客さんがいらしたら精一杯応対し、合間に交代でお昼をいただき、閉店後は洗い物と掃除と手入れを手早く済ませ、近所で軽く一杯引っ掛けて帰る。日曜も同じ。次の週も同じ。

大きく見れば同じことの繰り返しだけど、設備や道具を少しずつ増やし、作業動線や役割分担も少しずつ改善して、半年前に比べればだいぶお店らしくなった。と思う。立ち寄ってくださるお客さんも少しずつ増えている。と思う。自分たちも店員らしくなってきた。と思う。

土日に働く生活を半年続けて、身体は少し疲れているけれど、心は満ち足りている。豆を焼くこと、コーヒーを淹れること、店内からのんびりと外を眺めること、全てがただただ楽しい。お客さんにも楽しんでもらえていたら、なお嬉しい。

こんな調子のマイペースなお店ですが、これからもどうぞよろしくお願いします。

貝殻豆

「かいがらまめ」と読みます。お聞きになったことはおありでしょうか。

baisadoでは、仕入れた生豆を洗って天日干ししてから焙煎していますが、洗った際、干した際、さらに焙煎した際に、異常な豆を目視で除去しています。仕入れている生豆は精選の質が高いので、数はさほど多くありませんが、水に浮く(スカスカの)豆、茶色い(発酵した)豆、青い(カビの生えた)豆、小さな穴の空いた(虫食い)豆などを、見つけ次第取り除いていきます。

このとき、取り除くかどうかをいつも迷うのが「貝殻豆」です。

コーヒー豆は、「豆」と呼ばれてはいますが、実はコーヒーノキの実(コーヒーチェリー)の種子で、通常一つの実に向かい合って二つ入っています。ところが稀に、片方の種子がもう片方を包み込むように成長し、二つの種子が抱き合ったまま生豆として出荷されることがあります。

このような生豆は、乾燥中や焙煎中に二つに分かれ、片方は少し小粒な豆、もう片方が貝殻豆になります。ですので、洗って干している間はあまり見つけられず、焙煎後に多く発見されるのです。

口を開けて笑っているような見た目はちょっと可愛らしく、凹んではいるものの色艶的には問題なさそうなのですが、豆の薄い部分と厚い部分で焙煎度合いが変わり、焼け過ぎになっている可能性があるため、もったいないと思いつつ取り除きます。しかし捨てるのは忍びなく、別の容器に保存して自家消費しています。

できる限り丁寧に検品しているのですが、お買い求めいただいた焙煎豆の中に、貝殻豆が含まれていることがあるかもしれません。そのときは、そっと取り除いて、豆と一緒に笑ってやってください。

豆が変わりました

 少し前から、baisadoで取り扱うケニア・グアテマラ・コロンビア産の豆が変わっています。それぞれを簡単にご紹介します。

ケニア マサイ AA

 これまで扱っていた「ピンク・フラミンゴ」が手に入らなくなったため、以前扱っていたこの商品を再び仕入れることにしました。

 初めて飲んだ時、その力強さと華やかさに強い衝撃を受け、「いつかお店をやるなら絶対扱おう」と思っていた商品で、中央部のニエリ県キリニャガ県ムランガ県、および東部のエンブ県で生産された生豆のうち、高品質なものを選んでブレンドされたものです。「AA」は、ケニアのコーヒー豆の規格における最上位グレードで、最も大粒なものです。

https://baisado.theshop.jp/items/53493822

グアテマラ アンティグア アゾテア農園 ブルボン SHB

 ケニアと同様、これまで扱っていた「フローラル・ジャスミン SHB」の終売に伴い、以前扱っていたこの商品を再登板させています。

 「フローラル・ジャスミン」と同じ地域で生産された商品ですが、単一農園の単一品種であることが特徴で、伝統的な品種であるブルボン100%であることに惹かれています。「アンティグア」とは「古い」の意味で、アゾテア農園のある南部サカテペケス県の県都アンティグア・グアテマラ市は、グアテマラの古都として1979年に世界遺産に登録されたそうです。また「SHB(ストリクトリー・ハード・ビーン)」は、グアテマラのコーヒー豆の規格における最上位グレードで、標高4500~5000フィート(約1350~1500メートル)で収穫されたものにのみ適用されます。高地で育つほど厳しい気候によって豆が固く締まり、風味が良いコーヒーになるとされています。

https://baisado.theshop.jp/items/53494065

コロンビア ウイラ マグダレナ SUP

 これまで扱っていた「ブーゲンビリア農園 EX」よりもひとまわり粒の大きなSUP(スプレモ)規格の豆を扱ってみることにしました。ブーゲンビリア農園のある北部サンタンデール県の南西に位置するウイラ県で生産された商品で、どちらの県もコーヒーの原産地呼称制度で認定されている、コーヒーの名産地です。中でもウイラ産コーヒーは、酸味と甘味のバランスが良いことが特徴とされています。また「マグダレナ」とはコロンビア最長の川の名前で、その源流がウイラ県にあることから名付けられています。

https://baisado.theshop.jp/items/65864712

 高品質なコーヒー豆の特徴である、高い香りと微妙で複雑な味わいを、ぜひ一度お試しください。

淹れ方のこと

baisadoでは、ペーパードリップでコーヒーを淹れています。ドリッパーは種類が多く、それぞれに特徴や利点がありますが、共通のコツもいくつかあります。

  • 少し冷ましたお湯を使う
    • 紅茶と同じイメージで沸騰したお湯を注ぐと、エグみ成分も多く抽出されてしまいます。baisadoでは、85〜90℃のお湯を使っています。
  • 最初は粉を湿らせる
    • コーヒーの成分は、お湯の力で粉の中心から表面へと押し出されます。最初からドバッとお湯を注ぐと、中心部の成分を抽出しきれないため、最初はポタポタとお湯を落とし、ドリッパーの底からコーヒーが落ち始めたら、一旦注ぐのをやめます。
  • 粉を湿らせたあと少し待つ
    • 注ぐのをやめたら、少し待ちます。これを「蒸らし」と言います。粉に含まれる炭酸ガスが放出されるため、表面が少し膨らんできます。表面の様子が変わったなと思ったら(おおむね30秒ほど)、注湯を再開します。
  • 何回かに分けてお湯を注ぐ
    • 粉とお湯の接触時間が長くなり過ぎると、エグみ成分も多く抽出されてしまうので、一度に全部のお湯を注がず、何回かに分けてお湯を注ぎます。
  • ドリッパーに溜まったお湯を落とし切らない
    • ドリッパーの表面には白いクリーム状の泡が浮かびますが、これはいわゆるアクですので、コーヒーに混ざらないほうがベターです。そこで、何回かに分けてお湯を注ぐ際は、完全にお湯が落ち切る前に注湯を再開します。また、欲しい量のコーヒーが得られたら、ドリッパーにお湯が残っていてもドリッパーを外します。

とは言え、あまり神経質になってはコーヒータイムが楽しくなくなりますし、エグみやアクも味の一部で、どうしても取り除かなければならないというものでもありません。生豆の質が高ければ、ある程度の美味しさは保証されていますので、淹れる人のクセや淹れる時の気分で微妙に変わる味を楽しむ、ぐらいがちょうど良いと思います。