「焼きたてのパン」「揚げたてのトンカツ」「搾りたての日本酒」。どれも聞くだけで美味しそうです。「〜たて」という言葉は、食品の新鮮さを強くアピールしてくれます。
コーヒーも食品ですので、新鮮さは重要です。ただしコーヒーの新鮮さといっても、摘みたての生豆、焼きたての焙煎豆、挽きたてのコーヒーの粉、淹れたてのコーヒーと、いろいろあります。
このうち違いが一番分かりやすいのは「挽きたて」でしょうか。焙煎豆を挽くと、空気に触れる面積がずっと大きくなるため、酸素や日光の影響を受けやすくなってしまいます。粉が酸化すると、おいしい「酸味」とは異なる、飲みにくい「酸っぱさ」が感じられるようになりますので、挽いた豆は密封容器に入れて冷暗所に保管し、できるだけ早めに飲み切ることをお奨めします。
年内に収穫された「摘みたて」の生豆は、「ニュークロップ(新豆)」と呼ばれ珍重されます。収穫から日の浅い生豆には爽やかな草のような香りがあり、淹れたコーヒーの香りや味わいも力強いように感じます。日本では、早ければ10月ごろ、ブラジル産のニュークロップが店頭に並び、他国産もその後ニュークロップに切り替わっていきます。これは良い悪いというよりも「秋から冬のお楽しみ」と捉えています。
焙煎豆については、必ずしも「焼きたて」が最高とは限らない、と感じています。コーヒーの香り成分の多くは揮発性が高いため、焙煎直後の豆を使えば最も風味豊かなコーヒーになるはずなのですが、焙煎直後の豆は炭酸ガスが活発に放出しているため、ドリッパーにお湯を注いだ際に粉が膨らみ過ぎ、成分を抽出しきれない場合があるのです。
焙煎後一晩寝かせると、炭酸ガスの放出ペースが落ちて豆が落ち着き、成分がしっかり抽出される印象があります。豆のまま密封容器に保管すれば、粉よりも長期間風味を保てますので、通常baisadoでは、焙煎後1〜2週間は寝かせた豆を使ってコーヒーをお出ししています。
最後に「淹れたて」については、時間の経過とともに風味の変化を楽しむものだと考えています。淹れたてのコーヒーは温度が高いため、比較的酸味が強く感じられますが、時間が経過して温度が下がると、今度は甘みが強く感じられるようになります。baisadoの生豆は、焙煎前に洗って干していますので、時間が経っても飲みにくくはならず、風味の変化を素直に感じていただけるはずです。
ですので、「挽きたて」以外は劣化ではなく変化であると捉えて、さまざまな条件の違いを楽しんでいただければと思います。