秋の新豆(その1)

 baisadoは少量ずつ焙煎しているため、生豆の仕入れも少量ずつ行なっています。自分たちが気に入り、お客さんにも気に入っていただいた豆はリピートしていますが、時々は新しい豆を試すことにしています。

 今月は、久しぶりにインドネシアの豆を入荷しました。

インドネシア マンデリン ビンタンリマ G1

 インドネシア・スマトラ島北部の、世界最大のカルデラ湖であるトバ湖周辺で生産されるコーヒーは、生産を主導した部族の名前を冠して「マンデリン」と呼ばれます。「スマトラ式」として知られる独自の精選方法(簡単に言えば、生乾きの状態で脱穀して豆を裸にしてしまう)による、シナモンやハーブに例えられる独特な風味が特徴です。一口飲んだ時のどっしりした力強さが印象的なコーヒーで、ミルクとの相性もバッチリです。

 インドネシア語で「ビンタン」は「星」、「リマ」は「5」の意味だそうですので、商品名の「ビンタンリマ」を意訳すれば「風味・品質5つ星!」という感じでしょうか。また、G1はインドネシアのコーヒーの品質等級で、欠点豆が最も少ないものにグレード1(G1)が与えられます。

https://baisado.theshop.jp/items/68289000

 11/5(土)から店頭およびオンラインショップで取り扱っています。ぜひ一度お試しください。

半年経ちました

不動産屋さんからお店の鍵を預かったのが去年の12/27。焙煎機がお店にやってきたのが2/13。開業届を出したのが4/1。そして初めて店を開けたのが4/30。

気が付けば開店して今日で半年。お店での一日一日はすごく長く感じられているのに、振り返ればあっという間だった。

平日の朝に自宅で生豆を洗って干し、土曜の開店前に豆を焼き、焼きたての豆の味見をしながら静かに店番し、お客さんがいらしたら精一杯応対し、合間に交代でお昼をいただき、閉店後は洗い物と掃除と手入れを手早く済ませ、近所で軽く一杯引っ掛けて帰る。日曜も同じ。次の週も同じ。

大きく見れば同じことの繰り返しだけど、設備や道具を少しずつ増やし、作業動線や役割分担も少しずつ改善して、半年前に比べればだいぶお店らしくなった。と思う。立ち寄ってくださるお客さんも少しずつ増えている。と思う。自分たちも店員らしくなってきた。と思う。

土日に働く生活を半年続けて、身体は少し疲れているけれど、心は満ち足りている。豆を焼くこと、コーヒーを淹れること、店内からのんびりと外を眺めること、全てがただただ楽しい。お客さんにも楽しんでもらえていたら、なお嬉しい。

こんな調子のマイペースなお店ですが、これからもどうぞよろしくお願いします。

貝殻豆

「かいがらまめ」と読みます。お聞きになったことはおありでしょうか。

baisadoでは、仕入れた生豆を洗って天日干ししてから焙煎していますが、洗った際、干した際、さらに焙煎した際に、異常な豆を目視で除去しています。仕入れている生豆は精選の質が高いので、数はさほど多くありませんが、水に浮く(スカスカの)豆、茶色い(発酵した)豆、青い(カビの生えた)豆、小さな穴の空いた(虫食い)豆などを、見つけ次第取り除いていきます。

このとき、取り除くかどうかをいつも迷うのが「貝殻豆」です。

コーヒー豆は、「豆」と呼ばれてはいますが、実はコーヒーノキの実(コーヒーチェリー)の種子で、通常一つの実に向かい合って二つ入っています。ところが稀に、片方の種子がもう片方を包み込むように成長し、二つの種子が抱き合ったまま生豆として出荷されることがあります。

このような生豆は、乾燥中や焙煎中に二つに分かれ、片方は少し小粒な豆、もう片方が貝殻豆になります。ですので、洗って干している間はあまり見つけられず、焙煎後に多く発見されるのです。

口を開けて笑っているような見た目はちょっと可愛らしく、凹んではいるものの色艶的には問題なさそうなのですが、豆の薄い部分と厚い部分で焙煎度合いが変わり、焼け過ぎになっている可能性があるため、もったいないと思いつつ取り除きます。しかし捨てるのは忍びなく、別の容器に保存して自家消費しています。

できる限り丁寧に検品しているのですが、お買い求めいただいた焙煎豆の中に、貝殻豆が含まれていることがあるかもしれません。そのときは、そっと取り除いて、豆と一緒に笑ってやってください。

豆が変わりました

 少し前から、baisadoで取り扱うケニア・グアテマラ・コロンビア産の豆が変わっています。それぞれを簡単にご紹介します。

ケニア マサイ AA

 これまで扱っていた「ピンク・フラミンゴ」が手に入らなくなったため、以前扱っていたこの商品を再び仕入れることにしました。

 初めて飲んだ時、その力強さと華やかさに強い衝撃を受け、「いつかお店をやるなら絶対扱おう」と思っていた商品で、中央部のニエリ県キリニャガ県ムランガ県、および東部のエンブ県で生産された生豆のうち、高品質なものを選んでブレンドされたものです。「AA」は、ケニアのコーヒー豆の規格における最上位グレードで、最も大粒なものです。

https://baisado.theshop.jp/items/53493822

グアテマラ アンティグア アゾテア農園 ブルボン SHB

 ケニアと同様、これまで扱っていた「フローラル・ジャスミン SHB」の終売に伴い、以前扱っていたこの商品を再登板させています。

 「フローラル・ジャスミン」と同じ地域で生産された商品ですが、単一農園の単一品種であることが特徴で、伝統的な品種であるブルボン100%であることに惹かれています。「アンティグア」とは「古い」の意味で、アゾテア農園のある南部サカテペケス県の県都アンティグア・グアテマラ市は、グアテマラの古都として1979年に世界遺産に登録されたそうです。また「SHB(ストリクトリー・ハード・ビーン)」は、グアテマラのコーヒー豆の規格における最上位グレードで、標高4500~5000フィート(約1350~1500メートル)で収穫されたものにのみ適用されます。高地で育つほど厳しい気候によって豆が固く締まり、風味が良いコーヒーになるとされています。

https://baisado.theshop.jp/items/53494065

コロンビア ウイラ マグダレナ SUP

 これまで扱っていた「ブーゲンビリア農園 EX」よりもひとまわり粒の大きなSUP(スプレモ)規格の豆を扱ってみることにしました。ブーゲンビリア農園のある北部サンタンデール県の南西に位置するウイラ県で生産された商品で、どちらの県もコーヒーの原産地呼称制度で認定されている、コーヒーの名産地です。中でもウイラ産コーヒーは、酸味と甘味のバランスが良いことが特徴とされています。また「マグダレナ」とはコロンビア最長の川の名前で、その源流がウイラ県にあることから名付けられています。

https://baisado.theshop.jp/items/65864712

 高品質なコーヒー豆の特徴である、高い香りと微妙で複雑な味わいを、ぜひ一度お試しください。

淹れ方のこと

baisadoでは、ペーパードリップでコーヒーを淹れています。ドリッパーは種類が多く、それぞれに特徴や利点がありますが、共通のコツもいくつかあります。

  • 少し冷ましたお湯を使う
    • 紅茶と同じイメージで沸騰したお湯を注ぐと、エグみ成分も多く抽出されてしまいます。baisadoでは、85〜90℃のお湯を使っています。
  • 最初は粉を湿らせる
    • コーヒーの成分は、お湯の力で粉の中心から表面へと押し出されます。最初からドバッとお湯を注ぐと、中心部の成分を抽出しきれないため、最初はポタポタとお湯を落とし、ドリッパーの底からコーヒーが落ち始めたら、一旦注ぐのをやめます。
  • 粉を湿らせたあと少し待つ
    • 注ぐのをやめたら、少し待ちます。これを「蒸らし」と言います。粉に含まれる炭酸ガスが放出されるため、表面が少し膨らんできます。表面の様子が変わったなと思ったら(おおむね30秒ほど)、注湯を再開します。
  • 何回かに分けてお湯を注ぐ
    • 粉とお湯の接触時間が長くなり過ぎると、エグみ成分も多く抽出されてしまうので、一度に全部のお湯を注がず、何回かに分けてお湯を注ぎます。
  • ドリッパーに溜まったお湯を落とし切らない
    • ドリッパーの表面には白いクリーム状の泡が浮かびますが、これはいわゆるアクですので、コーヒーに混ざらないほうがベターです。そこで、何回かに分けてお湯を注ぐ際は、完全にお湯が落ち切る前に注湯を再開します。また、欲しい量のコーヒーが得られたら、ドリッパーにお湯が残っていてもドリッパーを外します。

とは言え、あまり神経質になってはコーヒータイムが楽しくなくなりますし、エグみやアクも味の一部で、どうしても取り除かなければならないというものでもありません。生豆の質が高ければ、ある程度の美味しさは保証されていますので、淹れる人のクセや淹れる時の気分で微妙に変わる味を楽しむ、ぐらいがちょうど良いと思います。

抽出(と濾過)のこと

生豆洗ってから干し焙煎しミルで挽いたら、ようやくコーヒーを淹れる準備ができました。

コーヒーを淹れる作業は、二つのプロセスに分かれています。コーヒーの粉に含まれる成分を液体に溶かし出す「抽出」と、成分が溶けた液体とコーヒーの粉を分離する「濾過」で、これらをいつどのように行うかで、サイフォン、ネルドリップ、フレンチプレスなど、さまざまな淹れ方が存在します。

baisadoでは、ペーパードリップでコーヒーを淹れています。注ぐお湯の温度や勢いを自由に調節できるので狙った味を作りやすいこと、また淹れた後はペーパーフィルターごと交換するので衛生的かつ後片付けが楽なことが理由です。

ペーパードリップは、ペーパーフィルターを被せたドリッパーにコーヒーの粉を入れ、上からお湯を注ぐ淹れ方で、「上から注ぐ」ことに着目して「プアオーバー」と呼ばれたりもします。

このドリッパー、メーカーによって穴の数や大きさが異なります。それぞれ理由があってのことなのですが、ドリッパーとペーパーのメーカーが異なると、微妙にサイズが合わず困ることもあります。

一般に、ドリッパーの穴が少ないほど、また穴が小さいほど、内部にお湯が溜まりやすいため、こってりした味になりやすく、逆に穴が多いほど、また穴が大きいほど、あっさりした味になりやすくなります。また、濾過するためのペーパーフィルターの質や厚みも重要で、これもメーカーによって結構異なります。

baisadoでは、毎回安定して淹れられる、ドリッパーのサイズが違っても同じ時間で淹れられる、ペーパーフィルターの紙質が良くて厚みがあるなどの理由から、国内の業務用メーカーの器具を使っています。見た目は地味ですが、良い仕事をしてくれるので気に入っています(お店やオンラインショップでも取り扱っています)。

今回も一つ豆知識を。ペーパーフィルターには、無漂白の茶色のものと漂白済みの白色のものがあります。なんとなく茶色のほうが環境によさそうに思えますが、漂白剤は塩素系ではなく酸素系であるため、白いフィルターの安全性に問題はないそうです。また、茶色のフィルターにお湯を注ぐと、紙の匂いがお湯に移ることがあり、敏感な方には気になるかもしれません。ということで、もしどちらかを選べるなら、白色のフィルターをお奨めします。

コーヒーミルのこと

コーヒーは、焙煎されたコーヒー豆に含まれるさまざまな成分を、水に溶かしたものです。

とは言え、コーヒー豆をそのまま水に浸けても、簡単には成分は溶け出してくれません。「じゃあ豆を細かく砕けばいいじゃん」と思いついた人は偉いです。

コーヒー豆を細かくするには、コーヒーミルと呼ばれる器具を使います。手動か電動か、羽根で砕くか臼で挽くかという違いのほか、臼の形状や材質などにもバリエーションがあり、値段もさまざまです。

業務用には、安定性と耐久性が両方求められるため、回転する板状の金属臼で豆を挟んで挽く電動ミルがポピュラーで、baisadoでもこのタイプを使っています。強力なモーターや頑丈な臼で構成されているため、めちゃくちゃ重たいです。

また、コーヒーを抽出する器具や方法によって、最適な挽き目(粒の大きさ)は異なります。これは、挽き目が細かいほど、成分が短時間で抽出されるためです。

例えば、フレンチプレスやパーコレーターのように、粉を長時間お湯に浸ける場合は粗めに挽く一方、エスプレッソマシンのように、粉とお湯との接触時間がごく短い場合や、水出しコーヒーのように、粉を(お湯よりも成分が抽出されにくい)冷水に浸ける場合は、細かめに挽きます。baisadoでは、ペーパードリップでコーヒーを作っているため、両者の中間の粗さ(いわゆる「中細挽き」)で挽いています。

最後に豆知識を。豆を挽く際には、微粉(びふん)と呼ばれる非常に細かい粉が発生します。「細かいほど短時間で抽出できる」法則に従って、微粉からは通常よりも多くの成分が抽出されてしまうため、コーヒーの渋みやエグみにつながることがあります。

これがあまりに気になる場合は、挽いたコーヒーの粉を茶漉しに入れて軽くふるうと、微粉だけを除去することができます。淹れたコーヒーの印象が結構変わりますので、ご興味あれば一度お試しください。

焙煎のこと

baisadoでは、こんな焙煎を行なっています。

  • 「火加減の調節」だけで加熱してゆき
  • 「一番いい瞬間」に取り出す

「水洗い」は、生豆の表面についた汚れを落とすのが目的ですが、「シルバースキン」や「チャフ」と呼ばれる、生豆の表面を覆う薄皮を剥がす効果も得られます。生豆が綺麗になるのは単純に気持ちが良いですし、焙煎中に剥がれる薄皮の量を減らせるので、焙煎後の清掃も楽です。私たちが目指している「風味しっかり、後味すっきり」「冷めてもおいしい」コーヒーづくりには大切な要素だと考えています。

「火加減の調節」は、豆の温度を一定のペースで上げていくために行います。自動車で長い坂道を登るようなもので、ペースを維持するためには、少しずつ火力を増していく必要があります。また、生豆は焙煎中に2回、パチパチと「はぜる」のですが、1回目の「はぜ」以降は豆の状態がどんどん変わっていくため、変化を見落とさないよう今度は火力を落とします。

「一番いい瞬間」は、2回の「はぜ」の間にあります。1回目の「はぜ」が終わった辺りから秒単位で観察を繰り返していると、豆の表面が変化する瞬間がやってきます。そのタイミングを捉え、焙煎釜の蓋を開けて豆を取り出し、急いで冷まします。結果として、一般的に「中煎り」と呼ばれる煎り具合に仕上がります。豆の個性はありながら、酸っぱ過ぎず苦過ぎない、私たちがおいしいと感じるコーヒーの原料が、こうして出来上がります。

これらはどれもシンプルで再現可能なことばかりなのですが、いつも安定した結果を得るには、私たちの操作が安定しなければなりません。日々練習です。

焙煎機のこと

baisadoでは、国産の小型焙煎機を使い、店内でコーヒー豆を焼いています。

昨年夏に受講した焙煎講座で、生まれて初めて操作した焙煎機が、数ヶ月後に売りに出されると知り、思い切って手を挙げたところ、幸運にも入手できました。そこから焙煎機の置き場探しを始め、半年後の開店に至ります。

10年近く使われてきた機械で、新品のようにピカピカではありませんが、とても丁寧に使われており、メンテナンスも行き届いているため、作業中の安定感は抜群です。

メーカーのマニュアルや同業者さんのネット記事を見ながら、見よう見まねで分解清掃するうち、この機械の良さがだんだん分かってきました。

一般的な工具でほぼ完全に解体できるほどメンテナンス性が高い一方、ハードな長期使用にも耐えられるよう、各部品はとてもしっかりしています。小さいけれどとても重いのにも納得です。

私たちは趣味で楽器を演奏するのですが、高価な楽器が自分に合うとは限らないことや、昔の楽器のほうが材料や造りが贅沢であることを、実体験しています。

生まれたばかりのbaisadoには、ちょっと年季が入っていても、小さくて頑丈で操作しやすいこの焙煎機が、身の丈に合っていると感じています。